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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
そこへ内地からただ一台の鉄の稲扱器を取寄せてみた人があったが、方々から珍しがって借りにくるので、僅かの間に破損してしまったと謂っている(同誌二巻十号)。
いわゆるカナゴキの優越なる能力は、確かに当時の農村人を驚歎せしめるに足るものがあったが、しかもセンバコキなる名称は、それよりもずっと早くから、実は世の中に知られていて、是は多くの地方では福島・栃木などでいうカラハシ、すなわち竹製の稲扱器のことを意味していたのであった。実際この櫛の歯式の竹の稲扱が出て来て、在来の簡単な二本の扱箸にかわった時の方が、後にそれ自身が鉄製のものにかわられた時よりも、はるかに農民に与えた印象は強烈であったのである。後者は単に功程が急増したというだけであるに反して、前者はこれに由って外には作業の形式を一変し、内には私経済の組織に最も顕著なる影響を与えざれば止まなかったからである。この突如たる事情の変化を、やや誇張したる語辞をもって言い現わそうとしたのがセンバであった。必ずしも一日に千把の稲を扱き得るということを、実証した後に附与した名ではなかった。センバという名称は西は大分県海部郡、肥前の千々岩、また熊本県八代郡などにも見いだされるが、主としては東北の端々において行われている。