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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
家の生滅異動と婚姻制との交渉などは、俳諧を主要の史料として利用せぬかぎり、ほとんとその近世の変化を明らかにし得ないとまで私らは考えている。古来幾多の物語はただ定まった型を追い、もしくは優秀特異の事例のみを記述して、平凡日常の恋愛を無視していた。遊女の記録のごときも、この何物よりも重要なる社会事実の推移を、一つの側面から反映する点において意義はあったのだが、それも多くはまた都府の一角の、最も機械的なる生活をしか取扱わなくなって、末は完全に無用の文学となってしまった。ところが俳諧の恋の座の上には、ちょうどこの種の文学で馬鹿にされていた最も有りふれたる民間の小さな情痴が、しばしば聯想によって引き出されて坐っており、それがまた絵巻物にでも見るような上のローマンスと交錯して、特に一巻の色彩を変化あらしめていたのである。その作者の多数が、もうこんな問題を行き抜けた法体や隠居であるがために、囚われない静かな洞察をしているということも我々には興味がある。滅多に客観の冷やかな記述が得られない恋愛の歴史であるだけに、私は後代の社会学徒によって、この方面の資料のことごとく珍重せられる日の来べきことを予言し得る。