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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
そうして是がまた常の浮世の、面白い一つのあや模様でもあったのである。
一二の句がらによって臆断を下すことはできぬが、比較を重ねて行こうと思えば、幸いにして豊富な資料はある。只今私の心づいた僅かな附句の中からでも、なお江戸中期の山伏の境涯、少なくとも世の俗人たちがそれをどう見ていたかだけは、おおよそは判るように思われる。
鼠に月を吐き出だす雲 夕菊
秋山に荒山伏のいのる声 翁
樵る人も無くこけし神の木 友五
是などは鼠は頼豪阿闍梨などの聯想もあって、一つの物語風の作意であったかと思われるが、神木が自然に倒れたという風に、思い及んだのはこのころの常識であったろう。それから『深川集』の有名な一つづき、
我跡からも鉦鼓打ち来る 嵐蘭
山伏を切つて掛けたる関の前 翁
鎧もたねば成らぬ世の中 洒堂
なども、明らかに一幅の歴史画ではあったが、当時この類の言い伝えはなお鮮かに印象せられていて、殊に念仏修行の光景を凄愴ならしめたのである。戦国の頃には山伏はよく密偵に利用せられ、またしばしば武士に反抗して生命を奪われることを意としなかった。