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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
少しく余分に感歎する者は、すぐさま自分でも書いてみようとする。詩歌俳句は勿論のことで、いつの世にも読者の数よりは作者の数の方が多い。漢詩などはこの漢文の衰えた時代に無理な話だと思うが、えらい人になるとみな作りたがる。すなわち誰にも読まれることを期せざる文芸というものがまだあるのである。前代の俳諧のごときは殊に読者を限定して、いわば銘々の腹の中のわかる者だけで鑑賞し合い、今日存する篇什はその楽しみの粕のようなものである。時代が改まって程なく不可解になるのも自然であった。面白味の判らぬだけならまだ曲従することもできる。わかったような顔もしていられるが、どう考えても全然意味がとれない句、または人によって解説の裏へらになったものさえある。よい例は最近の俳諧研究書の中で、幸田露伴さんの本などは大切なものであるが、どちらが正しいかは問題外として、私などが今まで解しているのと正反対にとっておられるのが幾つもある。たとえば『冬の日』の、
鶴看る窓の月かすかなり
風吹ぬ秋の日瓶に酒無き日
この「風吹ぬ」を私などは「風吹かぬ」と解し、先生は「風吹きぬ」だと見ておられた。