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もめんいぜんのこと
木綿以前の事
柳田 国男
線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁
つまりそういう単純な烈情というものが、事前に処理せられて常人の中にもめったに現われなくなったのである。俳諧花やかなりし頃には、芝居でなくとも男が泣いていたようである。たとえば、
西衆の若党つるゝ草枕 洒堂
むかし咄に野郎泣かする 許六
きぬ/″\は宵の踊の箔を着て 芭蕉
東追手の月ぞ澄みきる 嵐蘭
この許六と師翁との附合は、美少年が盛りの春をすでに過ぎて、懐旧に堪えぬ風情を叙したものかと思われるが、細かな感じは私には説明ができない。次に、
板のほこりに円座かさぬる 洒堂
すだれ戸に袖口赤き日の移り 里東
君はみな/\撫子の時 芭蕉
泣き出して土器ふるふ身の弱り 兀峰
是をやや詳しく説明すると、この一聯で気になるのは、第二・第四の句の結びの語形が似ていること、それから全体の場面のやや平板なことであるが、それでも前段は大きな古御殿に、美しい姫君の幾方か住んでおられる風情で、中古の絵巻物を見るようであり、芭蕉の附句の方は是をもう戦国の軍記ものまで引下げている。姫君・若様の成人なされた姿を見るにつけて、白髪の老臣が昔のことを思い出して泣くのである。