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もめんいぜんのこと

木綿以前の事

柳田 国男

線上閱讀柳田 国男《木綿以前の事(もめんいぜんのこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 177,586 字 · 348 頁

青空文庫

真似だと思えばこそ小倉地の詰襟なんかで、汗の放散を妨げてふうふうと苦しがらせたり、または寒くて乾燥した大陸でもないのに、あんな窮屈な靴を穿かせたり脱がせたり、泥ぼっかいの中をあるかせたり、手も洗わずに餅菓子を食べさせたりするのである。そのような指導は誰がしたか。一言でいうならば麻の一千年間の便利なる経験を、まるまる省みなかった先覚とやらの誤謬ではないか。

都市の格別働かない人たちのいい加減な嗜好を、消費の標準にさせて気づかずにおけば、まずはこういう結果になって行くのが順当であろう。一ばん悩んでいるのはおそらくは女の髪である。僅か百年ばかりも頭をむき出しで、あるきまわるのをよいとしていたら、今ではなんとも頬がえしのつかぬことになってしまった。被り物の作法は衰頽の一途をたどっている。折角単純な公私両用いの服装を考え出したところで、はき物・被り物を自然の変化に放任しておいたら、頭は埃を怖れ足は泥を怖れて、働こうという男女の職業は茶屋か店屋か、行く先はおおよそきまっている。こういう細かな利害得失は、もう自分で考えるだけの能力は具えている人が多い。実は我々は余計な指図をするかわりに、もう少し詳しく今までの変遷を、彼らに知らせるようにした方がよかったのである。