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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
式部が「一門」を楯にとるなら、安芸にも「一家」の面目があるし、ここでまた屈伏することは、かれらの野望を増長させるばかりでなく、紛争をますます複雑煩瑣にし、収拾のつかない状態にまでもってゆかれる危険が明らかにうかがわれる。
――ここはかれらの逆を取る機会だ。
これ以上の隠忍は却って破滅を招く、と安芸は書いていた。境論の国老評定はできるだけ延ばし、いよいよ裁決となったら、寺池の利分になるようにしてもらいたい。そのうえで自分は幕府へ訴え出るから、老中評定となったところで、船岡が「酒井侯と一ノ関との密契」を突きつける、ということにしたいと思う。時期については来年、亀千代さまが元服されるので、それが済んでからのほうがよいであろう。自分は十月に仙台へ出るつもりでいる、詳しいことはそのときじかに会って相談したい。手紙はそうむすんであった。
甲斐は読み終るなり、その書状に行燈の火をつけた。それを見た舎人は立ちあがって、部屋の隅から火桶を持って来た。甲斐は火桶の中で注意ぶかく燃してから、火箸できれいに灰をならした。
「今日、里見十左に会った」甲斐は暗い壁のほうへ眼をやりながら云った、「――失明して、躯もすっかり憔悴しているようだった」