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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
そうなったらあとへひく男ではない。甲斐は駕籠に乗り、草履を預けた。
――まちがってはいないか。
駕籠が品川の下屋敷へ着くまで、甲斐は幾たびも自分の考えを検討してみた。
涌谷の訴訟が老中評定にかけられるとき、おそらく、伊達家の運命は決するであろう。家中紊乱という名目で、六十余万石は改易になるかもしれない。酒井忠清がこの機会を覘っていたことは慥かであって、たとえ改易にはならぬとしても、忠清が一ノ関に約束したようなかたちで、致命的な処置をとられるという予想は避けられないと思う。これに抵抗するみちは、加賀、薩摩の二藩を味方に付けることであるが、どちらにもまだ手掛りさえついていない。前田家とはいちおう連絡ができたけれども、警戒されてそれ以上は踏みこめなかった。
――もう少し時間があれば、必ずものにしてみせる。
だが時間がない。出府して来る涌谷の安芸には、途中で会えるように使者を出した、「老中評定だけは避けなければならない」という理由を詳しく書き、村山喜兵衛に持たせてやった。それには、本邸へはいるまえに、湯島の家でいちど泊ってもらいたい、とも書いたのであるが、はたしてどういう返事をよこすかわからなかった。