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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
「かしこまりました」
「休むがいい、御苦労だった」
喜兵衛が出てゆき、まもなくおくみが来て、座敷に支度のできたことを告げた。
「ここへ膳の支度をしてくれ」と甲斐はおくみに云った、「少し考えることがある、膳の支度ができたらおれを独りにしてくれ」
「あの人たちに会っておやりなさらないんですか」
「あとだ」と甲斐は云った、「あとでゆくから、くつろいで飲めと云ってくれ」
おくみはそっと立ちあがった。
酒肴の膳立てをしておくみが去るまで、甲斐は無表情に黙って坐っていた。顔はまったく無表情で、眠たそうにさえみえたが、心の中では電光が閃き、雷が鳴りはためいているようなおもいだった。安芸は彼の頼みを拒絶した。安芸はもう昔の安芸ではない。幕府にとって、伊達家は籃中の魚であり、どうじたばたしてもその籃からのがれることはできないし、へたに暴れだせば却って爼上にのせられる、ここはがまんすべきときだ。これまで耐え忍んで来たではないか、多くの犠牲を払いながら耐え忍んで来たのはただ一つ、六十万石安泰のためではないか。あのころの安芸にはわかっていた。だが、いまの安芸はもうそれを理解しようとはしない。