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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁

青空文庫

「主水どのはお若いから」と甲斐は微笑した、両の頬に刻んだような皺がより、唇のあいだから僅かに、白い歯が覗いた、「私のつまらぬ意見を勘ちがいして聞かれたのでしょう、私は亡き周防と親しかったので、侍の奉公はみな一命を賭するものだ、ということを、年役として話したまでのことです」

志摩は唇を噛み、やや怒りのこもった眼で甲斐を見た、「原田どのは私を、信ずるに足らぬと思っているのですね」

甲斐は穏やかに志摩を見返した。

――こなたはいかがですか。

そう訊いてみたかった。志摩はみずから、茂庭主水の話しを聞くまで、誤解にもとづく非難を不審とは思わなかった、と云った。では、主水の話しを聞かないとしたらどうだ、と甲斐は心の中で問いかけた。もちろん、彼はそんなようすはけぶりにもみせず、穏やかな、なだめるような調子で云った。

「そういうお言葉には当惑するばかりですが、私が非難されているとすれば、それは私自身の責任で、信ずるにせよ信ぜぬにせよ、古内どのの御心配にあずかることではございません、御厚意は有難いがどうぞおすておき下さい」

志摩は暫く黙っていて、やがて気ぬけのしたように云った、「私にできることがあるなら、幾らかでもお力になりたいと思ったのだが、それではやむを得ません、念のために一つだけお耳にいれておきます」