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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
ながし斃れてゆくさまを、ただ主家大切という一義のために耐え忍んでまいったのです、しかしそのかいもなく、老中御評定ということになりました、それも数日うちにとうけたまわりました」
甲斐はそこで言葉を切った。昂ぶってくる感情をしずめるためだろう、両手を突いたまま、暫く息をととのえていたが、やがて躯を起こし、両手をそっと膝に置いた。
「御評定の裁決によっては、一門一家諸館を合わせて、八千余に及ぶ人数が郷土を追われ家を失い、生きる方途に迷わなければなりません」甲斐は殆んど眠たそうな眼つきで、大和守を見た、「――おそれながら大和守さまは、十年まえ、伊達家のために御好意をお示し下さいました、このたびの御評定にも、また御好意を願えると信じてよろしゅうございましょうか、それともこのたびは、かないませんでしょうか」
甲斐はぴたっと口をつぐんだ。まるで弾じていた琴の絃が切れでもしたように、言葉の中途でぴたりと口をつぐみ、そのままじっと大和守の眼をみつめた。大和守は写しの証文をひろげ、皺をのばして、緩慢な動作で元のように、それを四つにたたんだ。
「評定は二十七日、――」と大和守は甲斐を見ずに云った、「月番の板倉邸で開かれる筈だ、そのとき、この証文の実のほうを持って来ることができるか」