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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁

青空文庫

それから采女は館へ戻り、鷺坂が十左と共に、この青根へ来た、ということであった。

「これは罠だと思うのだ」と十左が代って云った、「氏家伝次にも申し渡しがあったそうだが、小野にだけ七十郎を伴れて再出頭しろ、というのは、呼びつけておいて腹を切らせるつもりだと思う」

七十郎は頷いた。十左は眼を拭き、肩をいからせて続けた。

「これまでのいきさつから考えても、逼塞とか預けぐらいで済もうとは思えない、かれらは詰腹を切らせるつもりだ、それに相違ないと思うがどうだ」

「いま一ノ関はどこにいる」と七十郎が十左を見た。

「裁決までは仙台にいたが、いまは一ノ関へ帰っている」

「鼬め」と七十郎が云った、「原田甲斐は船岡か」

「いや、これはまだ江戸だ」

「今年は在国の筈ではないか」

「御用繁多で番が明かないということだ」

七十郎は、話しはわかった、と頷き、とにかく湯にはいって来い、一と口飲んでからおれの思案を述べよう、と云った。

「そんな暇はない」と十左は首を振った、「采女どのが小野へ帰ったとわかれば、討手を向けられるおそれがある、そうなっては手おくれだ、このまますぐに立とう」

「討手が来るものなら、いそいで帰ってもむだだ、十左らしくもない、まあおちついて埃でも洗って来るがいい」