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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
――いまのうちだ。
いまの侍は家老の部屋へいったのだろう、戻って来ないうちになんとかしなければならない。そう思っていると、うしろから人の来るけはいがした。いま玄四郎が来たほうから、――どうやら五六人はいるらしい。玄四郎はかれらの眼につかぬように、襖の際へと身をすり寄せた。かれらは近よって来、玄四郎のうしろを通り過ぎていった。見ると、人数は五人、みな襷を掛け汗止めをし、袴の股立を絞っていた。
――仕手だ。
玄四郎がそう思ったとき、口番の侍たちも立ちあがって来た。ものものしい姿に驚いたのだろう、あれはなんだ、なにが始まるんだ、などと口ぐちに囁きあった。玄四郎は去ってゆく五人の中に、太田弥兵衛をそれと認めることができた。
――表て座敷は向うだな。
かれらのゆく方向にその場所がある。と思っていると、家老の部屋へ問い合せにいった待が、右手の廊下から戻って来るのが見えた。玄四郎は五人の仕手のほうへ眼をやった。かれらは口番の前をまっすぐに通り過ぎ、突当ったところを左へ、板縁のほうへ曲るところであった。よし、と頷いた玄四郎は、戻って来る侍のほうへ近よるとみせてさっと、板縁のほうへ走りだした。