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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁

青空文庫

玄四郎は前のめりに顛倒しながら、逆上するような気持で心に祈った。

――ああ神、この声をあの方の耳に届けさせたまえ。

彼は幾人かの力で押し伏せられながら、喉も裂けよと絶叫した。伊達家の方がた討手がゆきます、謀殺です、御用心ください。誰かが手で口を押えた。玄四郎はその手に噛みついた。

「やれ」と一人がどなった、「そのまま刺してしまえ」

仕手の一人が刀を抜いた。その侍は、押し伏せている四人の躯をよけて、上から、玄四郎の背中へさっと刀を突込んだ。

「原田さま」と玄四郎が叫んだ、「討手がゆきます、討手が……」

仕手の男はもういちど刺した。

表て座敷では、安芸が大書院からさがって来、代って古内志摩が呼びだされた。柴田外記は安芸に、なにか問いかけようとしたが、安芸はそれを拒むように、片手の指先をそっと振り、こんどもまた、障子の外の縁通りへいって坐った。外記の耳に、安芸の荒い呼吸が聞えた。走って来たあとのような、深くて荒いその呼吸は、そのまま安芸の強い昂奮をあらわしているようであった。

「米谷、――」とやがて安芸がいった、「心得ておいてくれ、おれはいま老中に、やがて原田甲斐よりごらんに入れる物がある、と申し残してきた」