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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁
「久世侯」と甲斐が云った。
「安芸、――甲斐も聞け」と大和守は云った、「よく聞け、伊達家のことは引受けた、わかるか安芸、聞えたか原田、仙台、六十二万石は安泰だぞ」
すると、甲斐の唇がゆるみ、僅かに白い歯が覗いた。額の皺が消え、硬ばった表情がやわらいで、顔ぜんたいに微笑がうかぶようにみえた。
「原田――」久世はつと、甲斐の耳に口をよせて囁いた、「八十島主計、あっぱれよくやった、心おきなく死ぬがいい、あとは引受けたぞ」
甲斐が口の中でなにか云った。それは女の名のようであったが、聞きとることはできなかった。
そのとき玄関では、――裃の肩をはね、袴の股立をしぼった河内守忠挙が、片手に鞘をはらった薙刀を持ち、両足を踏みひらいた颯爽たる姿で、玄関の外へ詰めかけている伊達家の供の者たちに向かって、よくひびく高い声で叫んでいた。
「騒ぐな、しずまれ、いま乱心者があって人を殺傷した、仔細はやがて聞かせるから、神妙に控えておれ、当家にはいま老中諸侯がおられる、騒ぐ者は罪科をまぬがれぬぞ」
冬の章
芝の良源院の方丈で、住職の玄察が宇乃と話していた。宇乃は三日まえに来た。弟の虎之助が叡山へ修行にゆくというので、三月の出来事も詳しく知りたいと思い、弟の送別を兼ねて出て来たのであった。