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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 145,078 字 · 285 頁

青空文庫

翌日、――三カ条の誓紙を、涌谷の伊達安芸まで、使者に託して送った。使者は小者で、もちろんそれが「誓紙」であることなどは云わず、単純な時候みまいというふうに思わせた。

そのあとで、七十郎は隠居所に、姉を訪ねた。姉は新左衛門が死ぬとすぐ、髪を切って隠居所にこもり、殆んど外出もせず、亡き良人の位牌を守って暮していた。

七十郎は姉にも事実は告げなかった。

「預け者になるそうですから」と彼はさりげなく云った、「暫くおめにかかれなくなるでしょう、お別れに一服ちょうだいできませんか」

姉は茶を点ててくれた。

「北村(七十郎の生家)へ立寄っておいでか」と姉が訊いた。

七十郎は、いや、と首を振り、期日が延びているから、このまま仙台へゆく、父や兄たちには、あとで詫びるつもりである、と答えた。

その夜は、家従ぜんぶと、別れの盃を交わした。七十郎はしたたかに酔い、わらべ唄を高ごえにうたったり、立って「鉢木」の一部を舞ったりした。むろんでたらめであるが、ごらん候え、これに物具一領、長刀ひとえだ、またあれに馬をも一疋つないで持ちて候。というくだりは、ふしぎに実感がこもって、みんなふと息をひそめた。