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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 167,285 字 · 330 頁
「わかった、あのときの男だ」と新八は云った、「いつか向島の土堤で、石川兵庫介さんに掠われようとしたとき、駆けつけて来て助けた男だ、そうだろう」
「ええ、そうです」
おみやはわるびれずにはっきり頷いた。新八はにやっと笑い、さぐるような眼つきで、おみやをじろじろ眺めながら云った。
「わかったよ、よくわかった、もうできちゃったんだな」
「新さん」とおみやが眼をあげた。
「ごまかすな、おれは見ていた」と新八は唇を歪めた、「おれははなれて見ていたんだ。おまえはその男を伴れて、あの茶店へ戻った、気がつかなかったろうが、おれはあのときあとを跟けていって、二人で茶店へはいるのを見たし、半刻ちかくも外で待っていたんだ」
「ええ、そのとおりよ、新さんの見ていたとおりだったわ」
「あのときできたんだな」
「違うわ、それだけは違うわ」
「あのときできたんだ」と新八は自分で頷いた、「おまえはそういう女だ、おれはよく知ってるが、男と二人で、半刻ちかくも茶店の奥にいて、なにもしないなんてことができる性分じゃあない、おまえはあのとき、もう男をものにしていたんだ」
「いいわ、そう思うなら思ってちょうだい、あたしがそんな女だったということは、自分でも知っているし、そうじゃないなんて云いはしません、けれども、黒田さんはあたしなんかとは人間が違うんです」