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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁

青空文庫

「さりとて、わしはこの通りの所労じゃ。頼長が兄に代って何かの切り盛りをするも是非があるまい。余の公家ばらは彼の鼻息を窺うばかりで、一人も彼に張り合うほどのものは殿上にあるまいよ」と、忠通は憤るように言った。勢いに付くが世の習いであることを、彼はしみじみと感じた。

その果敢ないような顔をじっと見あげて、玉藻はそっと言い出した。

「就きましては、わたくしお願いがござりまするが……」

「あらためてなんの願いじゃ」

「殿の御推挙で采女に召さるるように……」

「ほう、お宮仕えが致したいと申すか」

忠通はすこし考えた。玉藻ほどの才と美とを具えていれば、采女の御奉公を望むも無理はない。その昔の小野小町とてもおそらく彼女には及ぶまい。実は忠通にもかねてその下心があったのであるが、自分の傍を手放すのが惜しさに、自然延引して今日まで打ち過ぎていたのである。この際、本人の望むがままに、玉藻を殿上の采女に召させて、彼女の力をかりて頼長めの鼻をくじかせてやろうかとも考えた。忠通も女のひそめる力というものを能く識っていた。

「望みとあれば、推挙すまいものでもないが……。頼長めが何かと邪魔しようも知れぬぞ」