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たまものまえ

玉藻の前

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁

青空文庫

成景の見る前、もうなにも言っている間もないので、彼女はただ千枝太郎に目礼して別れた。そのうしろ影が門の外へ消えてゆくのを見送って、千枝太郎はなんだか物足らないような寂しい心持になって、糸にひかれたようにふらふらと樹の下を離れた。そうして、彼女を追うように同じく門の外へ出ると、まだ五、六間とはゆき過ぎない玉藻がけたたましく叫んだ。

「あれ、誰か来て……。助けてくだされ」

その声におどろかされて、きっと見ると、痩せさらばえた一人の老僧が片手に竹の杖を持って、片手に玉藻の袂をしかと掴んでいた。僧は物に狂っているらしい。鼠の法衣は裂けて汚れて、片足には草履をはいて片足は跣足であった。千枝太郎はすぐに駈け寄って二人のあいだへ割ってはいった。

「おお、千枝太郎どの。ようぞ来てくだされた。この御僧は物に狂うたそうな。不意にわたしを捉えてどこへか連れて行こうとする。どうぞ助けてくだされ」と、玉藻は悩める顔を袖に掩いながら言った。

「御坊。いかに狂えばとて、女人をとらえてなんの狼藉……」と、千枝太郎は叱るように言った。「静まられい、ここ放されい」

僧はなんにも言わなかった。