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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
青糸毛の牛車が三井寺の門前にしずかに停まると、それより先きに紫糸毛の牛車が繋がれていた。あとから来た青糸毛のうしろに、黒塗りの鷺足の榻が据えられて、うしろ簾がさやさやと巻きあげられると、内から玉藻の白い顔があらわれた。折りからそよそよと吹いて来る秋風に袴の緋を軽くなびかせて、彼女は牛車からしなやかに降り立つと、門前にたたずんでいた一人の侍がつかつかと歩み寄って来た。侍は藤内兵衛遠光であった。
「お身は三井寺御参詣か」と、遠光は会釈しながら訊いた。
玉藻の供の侍には遠光を見識っている者どももあった。関白家御代参として玉藻が参詣を彼らが答えると、遠光は苦い顔をして言った。
「唯今は宇治の左大臣殿御参詣でござる。誰人にもあれ、山門の内へ罷り通ること暫く御遠慮めされ」
ゆく手をさえぎられて、玉藻の供もむっとした。この青糸毛が眼に入らぬかというように、かれらは牛車を見かえって答えた。
「唯今も申す通り、これは関白殿御代参でござるぞ。邪魔せられまい」
そっちの糸毛ばかりをひけらかして、こっちの紫糸毛が見えぬかというように、遠光も自分の牛車をあごで示しながら言った。