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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
こうあきらめて頼長も宇治へ帰った。さきの雨乞いといい、きょうの待ち伏せといい、一度ならず二度までも仕損じた彼は、さすがに胸が落ち着かなかった。彼も悪魔の復讐を気づかって、その夜から宿直の侍の数を増してひそかに用心していたが、直接には別になんの禍いもなかった。しかし、玉藻は決してそれを無事に済まそうとはしなかった。彼女は京へ帰って、三井寺の一条を忠通に逐一訴えた。
「予の代参というそちに対して山門内に通さぬと申し、あまつさえこちらがおとなしゅう戻ろうとするのをうしろから遠矢を射かくるなど、言語道断の狼藉じゃ。頼長め、いよいよ気が狂うたと見ゆる。もう一刻も捨て置かれぬ。おのれ、おのれ、兄の足もとに踏みにじって、宇治の屋形を草原にしてみしょうぞ」と、忠通は自分も狂ったように罵った。
「ではござりましょうが、今しばらくの御勘弁を……」
「又しても止むるか。仇を庇うか……」
「庇うのではござりませぬ。たといかの人びとが如何ようにわたくしどもを亡ぼそうと巧まれましても、邪は正に勝たずの例で、正しいものには必ず神ほとけの守りがござります。現にさきの日の雨乞いを御覧なされませ。