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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
お前も先刻からここにいたならば、おそらくその刑罰を眼のあたりに見たであろう。いや、まだそのほかにも、妲己の残虐は言い尽くせぬほどある。生きた男を捕らえて釜うでにする。姙み女の腹を割く。鬼女とも悪魔とも譬えようもない極悪非道の罪業をかさねて、それを日々の快楽としている。このままに捨て置いたら、万民は野に悲しんで世は暗黒の底に沈むばかりじゃ。わが武王これを見るに堪えかねて、四百余州の諸侯伯をあつめ、紂王をほろぼし、妲己を屠って世をむかしの明るみにかえし、あわせて万民の悩みを救おうとせらるるのじゃ。紂王はいかに悪虐の暴君というても、しょせんは唯の人間じゃ。これを亡ぼすのは、さのみむずかしいとは思わぬが、ただ恐るべきはかの妲己という妖女で、彼女の本性は千万年の劫を経た金毛白面の狐じゃ。もし誤ってこの妖魔を走らしたら、かさねて世界の禍いをなすは知れてある」
そのことばのいまだ終わらぬうちに、高い台の上から黄色い煙りがうず巻いて噴き出した。老人は煙りを仰いで舌打ちをした。
「さては火をかけて自滅と見ゆるぞ。暴君の滅亡は自然の命数じゃが、油断してかの妖魔を取り逃がすな。