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たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《玉藻の前(たまものまえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 130,703 字 · 261 頁
客もあるじも十六夜の月を待つような、風流なのびやかな、さりとて一種の待ちわびしいような心持で、その美しい乙女のあらわれて来るのを待っていた。
「藻が伺候つかまつりました。すぐに召されまするか」
織部清治は来客の手前を憚って、主人の顔色をうかがいながらそっと訊くと、忠通はすぐに通せと言った。やがて清治に案内されて、藻は庭さきにはいって来た。
ここは北の対屋の東の庭であった。午すぎの明るい日は建物の大きい影を斜めに地に落として、その影のとどかない築山のすそには薄紅い幾株かの楓が低く繁って、暮れゆく秋を春日絵のようにいろどっていた。藻はその背景の前に小さくうずくまって、うやうやしく土に手をついた。
「いや、苦しゅうない。これへ召しのぼせて藁蓐をあたえい」と、忠通はあごで招いた。
清治は心得て、藻を縁にのぼらせた。そうして藁の円座を敷かせようとしたが、藻は辞退して板縁の上に行儀よくかしこまった。
「予は忠通じゃ。そちは前の蔵人坂部庄司の娘、藻と申すか」と、忠通は向き直って声をかけた。
「仰せの通り、坂部行綱のむすめ藻、初めてお目見得つかまつりまする」
彼女は謹んで答えると、信西も軽く会釈した。