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しんしゅうこうけつじょう

神州纐纈城

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 188,242 字 · 380 頁

青空文庫

若者の立ち上がる気勢がした。

屋根をひっぺがす音がした。屋根板を投げる音がした。しばらくそれが継続した。

「もうよかろう」

「うんよかろう」

二人の蹲る気勢がした。屋根板を掻き集める音がした。

「だが」と若者の声がした。「俺は燧石を持っていないよ」

「いや、俺が持っている」

新来の病人の声であった。

カチカチと火を切る音がした。火の粉がパッパッ闇に散った。

と、ボーッと燃え付いた。

一所闇が千切られた。そこへ楔形の穴が穿いた。焔が楔形に燃え上がったのであった。五人の者は火を囲んだ。風に消されまいと取り囲んだ。闇に燃え出した火の色は、天鵞絨の上へ芍薬の蕾を、ポッツリ一輪置いたようであった。パチパチと音を立てるのは、屋根板の燃える音であった。焔の舌が三つに分かれ、ヒラヒラ空の方へ立ち上る態は、芍薬の蕾が花弁を開き、その尖端を顫わせるようであった。焔が延びるにしたがって、闇の領分が押し退けられた。しかしすぐにその闇は、四方八方から逼って来て、焔の領分を押し縮めた。

焚火の上へ翳されたのは、五人の九本の腕であった。その一本には指がなかった。指のあるべき掌の端が、杓子のように円くなっていた。