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しんしゅうこうけつじょう

神州纐纈城

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《神州纐纈城(しんしゅうこうけつじょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 188,242 字 · 380 頁

青空文庫

そこから火の光が土塀の方へ射した。

やがて人達が帰って来た。円陣の空が塞がった。屋根板が山のよう積み重ねられた。幾本かの手がそれを掴んだ。火の中へくべられた、パッと焔が立ち上った。数十本の手が翳ざされた。どうして人間の手と云えよう! 穢い枯木や杓子であった。

シクシク泣く声が聞こえて来た。

誰もそっちを見るものがなかった。

「さようなら」

と云う声がした。

「妾は行きます、さようなら」

一人の癩人が立ち上がった。襦袢一枚の老婆であった。一本一本肋骨が数えられるほど痩せていた。白髪が顔へかかっていた。で顔は解らなかった。

光の圏内から抜け出した。

みんな何んとも云わなかった。

こうしてしばらく時が経った。

一人の癩人が振り返った。老婆が行った方を隙かして見た。と、彼は呟くように云った。

「……あそこに桜が咲いている。……太い枝が突き出ている。……白い物が散っている。……何か枝へブラ下がっている。……婆さんが首を吊ったらしい」

誰も何んとも云わなかった。身動き一つしなかった。

もちろん驚きもしなかった。珍らしいことでもないからであった。そうしてやがては誰も彼も、そうならなければならないからであった。