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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
が、どうぞまア、お気づかいなさいませんで」
柳斎は、しどろもどろ、額の汗を横にこすった。そして、それを機に、
「では、てまえも、さっそく身支度して、御門側の方へ出ておりまする」
と、腰を上げた。旅支度にも馴れているのか、彼はたちまち、蓑笠まで持って、はや先に出て、表の闇に佇んでいる。
空は、暗黒。唇にまで、流れこむ雨量だった。着込んだ蓑も吹きちぎられそう。
「馬を出せ、馬を三頭。――この暴風雨では、歩けもせぬ」
正季が叫んでいる。やがて正成以下、一団となって、雨もいとわず、卯木と元成を、送り出して来た。
「卯木、駒の背は大事ないか」
「はい」
「元成どの、早う乗れ」
「さらば、おつつがなく」
「夫婦こそだ。迷ぐれるなよ、卯木」
「……あい。お兄上さまたち」
「オオ、気をつけて行けよ。……柳斎」
「へいっ」
「そちは、鞍腰の据わりも見事。馬は上手とみゆるな」
「ど、どういたしまして。旅の馴れに過ぎません。……では、龍泉様、水分の御本屋様、……お夫婦の身は、どうぞ御安心なすって下さいまし。おさらばでございまする」
吹きなぐられつつ三つの笠は、馬の背から一様に、門へ向って、さいごの礼を告げた。