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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
長屋中は、その晩、まるで疎開の騒ぎ。
六波羅の検察がきて、没取の厄に会わぬまにと、多量な武具材料の一切を、必死で隠匿しはじめた物音なのだ。
思いもかけぬ突発事件に、卯木と元成の夫婦は、
「ああここの住居も、また浮草の岸だったのか」
と、血の気を引いた顔見合せ、
「もう一日も、ここには居られぬ。どこぞ他へ」
と、自分たちの運命は、とっさに、余儀ない覚悟にせまられたが、――折ふし、柳斎の帰りを待つため、数日ここに泊っていた草心尼と覚一は、どうするか。それがまず、当面の当惑だった。
「おいとましましょう」
尼は、静かに言った。
のみならず、何か、思い当るふしでもあるのか、
「――またも都のうちが、正中ノ変のような大騒ぎになったのでしたら、おそらく柳斎どのも、二度とここへは帰りますまい。お待ちするのも無駄ですし……」
覚一をうながして、すぐ立ち出そうな容子だった。
元成は、草心尼のことば端に、はっとした。
なぜ柳斎は、再びここへは帰らないのか。
都に勃発した事件と、具足師柳斎との間に、いったいどんなかかわりがあるものなのか。
かねがね柳斎の本身に、疑念を抱いていた元成は、一そう或る決意を強くした。