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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁

青空文庫

はや同席の人々は見えず、左将監と越後守との、両探題だけが残っていた。

「鬼六。何事だ」

越後守仲時は、まだ二十八。この重職の人としては、無類に若い。

「はっ……」鬼六は、不首尾な報告だけに、眼をつむって、一ト息に言ってしまった。

「昨夜、淀の辺にて、配下の者が、人もあろうに、足利殿の御縁者という尼前と盲のお息子を、ほかの怪しき雑囚と共に、つい六波羅牢へ曳き入れまいた。何ともはや、不始末な後なれど、おふたりの身柄、いかが処置いたしたものか、おさしずを仰ぎにまいった次第でござりまする」

「なに、足利殿の縁者?」

鬼六のことばが、ふと腑に落ちぬらしく、左将監時益は小首を傾げた。そして、

「越後どのには、ご存知か」

と、小声で仲時の方へたずねていた。

「されば、都へ赴任のさい、上杉殿がよろしく頼むと申しておられた。……その上杉殿の妹で、高氏殿には叔母御の尼前ではあるまいか」

両探題の私語を聞くと、鬼六はいよいよ恐懼していた。

「鬼六。も少し詳しゅう話せ。いかなる仔細なのか」

「はっ。……じつは」

と、彼が呶々と説明するのを聞けば、こうであった。

日頃からだが、近畿一帯には宮方へ心を寄せる反幕府の郷士、神官、雑民どもが、野に充ちているといってよい。