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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
――大塔ノ宮へは手が出せず、日野俊基の居所は知れぬ、とだけで、むなしく手を拱いているわけはない。むしろそれだけに、苛烈なあせりが、他へ向って、日夜、獄を充たしていたのであった。
洛中における軍需物資の隠匿場所が突かれたのはもちろんのこと、具足の製作者や、刀鍛冶や弓師、または公卿の使用人なども、数珠ツナギに、日ごと五条大橋の上を追われて、六波羅総門の内へ送りこまれた。
中でも、酷かったのは、僧侶の検挙だった。
雑賀隼人の手勢は、五月十一日のあけがた、法勝寺の円観上人を引ッ縛って、獄へ持ち込み、南条左衛門は、東寺を襲って、文観僧正を、捕縛して来た。
また、大和からは、知教、教円の二僧が同時に差し立てられ、これも獄舎へ投げ込まれる。
忠円僧正、遊雅法印、そのほか、かずしれぬ人々も、袈裟を裂かれ、法衣に荒縄をうけ、日ごろの知識の光や紫金の荘厳も獄土に功力を失って、みな恟々と呻きの下にいたのだった。
× ×
今――。境の廊ノ口から段を上って、三番白洲の吟味所の床に姿を見せた両探題は、白洲へすえられていた荒縄の大坊主の姿に、まずじっと眼をそそいだ。