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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
「…………」
そして。越後守仲時と、左将監時益の両探題は、顔見合せながら、二つの円座へ、わかれて着席したが、
――ははあ、これが聞き及ぶ文観だな。
と、特に腹を締めて見まもっていたものらしい。
どんな僧でも、ここの玉砂利に引き据えられれば、一応の答えはしているのに、小野の文観ひとりは、空うそぶいて、口書一つ取らせず、役人たちでは、どうにも手におえなかった。ただ、両探題直々ならば、答えてやるとは、放言する。
そこで、左将監と越後守は、
「どんな僧か?」
と、多少好奇心も手つだって、自身、吟味の床へ、出座してみたわけだった。――が今、それと知っても、莚の上の文観は、眼を半眼にとじ、巌のごとく、素知らぬ顔を、斜めにしていた。
「書記」
左将監時益の声なき声が、書記机の方へ横目で合図をした。口書の筆をとれ――という意味である。それから改まって、
「僧正」
と、白洲の文観へただしく呼びかけた。
すると文観は、眠っていた羅漢が、突と、大欠伸でも発するように、
「おうっ、なんだ」
と、答えた。吠えたといった方が正しい。
必要以上な彼の大声に、吟味所の冷気は一瞬震撼し、遠い木戸口の獄役人らも、ぎょっとした様子だった。