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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁
北朝第一の帝、光厳天皇は、この皇太子である。しかるになお、持明院方では、
「はや、十年はすぎている。一日もはやく、後醍醐は御譲位あるべし」
と、裏面から、さまざま関東を突ッついた。だが、正中ノ変によっても露呈された通り、北条氏自体が、すでにその実力も怪しげになって来ていた。
「幕府の手の内、見えたり」
と、なされて、後醍醐はいまや居直ッているお容である。――かりに持明院統の量仁を皇太子とはなされていても、もうそんな歴代のおろかな轍は、御自身ふたたび践もうなどとは思ってもおられない。
「時なるかなだ。朕というものが帝位についたからには、二度とこの帝位を、他統に譲ってよいものか。……のみならず、こんな皇室の在り方も正し、王政を延喜、天暦の古制に還して、鎌倉のごとき醜武者の府は、これを一掃せねばならぬ」
これがお腹の底の御誓いだった。
しかし、いかに英邁豪胆でおわそうと、ただそれだけのものではない。とりかこむ周囲の野望、それの刺戟剤となった宋学の新思潮、事々物々、可燃性的様相をはやめていた時の土壌というものなどが、それを援けていたといえよう。
その可燃物への点火者、日野俊基など、早くも乱兆の火の一葉となって、鎌倉へ送られて行く現状だった。