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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 126,598 字 · 254 頁

青空文庫

恋の彼岸を本願とするも出家。お身がたは、恋の出家というものじゃろうが」

「なるほど、おことばのような意味なれば」

「そればかりか」

兼好は、胸の奥底にはある埋め火のような熱情の端を、このとき語気にちらと、掻き立ててみせた。

「明日を思えば、何とも今日はただならぬ世というほかない。都も鄙も、公卿も武門も、また法の山門まで、頼む木蔭などはどこにもない。やがては、我執と我執の争いが、乱麻の修羅地獄をこの地上に呼びおろして来るのは、眼に見える心地がする」

「…………」

「はしなく、この未然地獄を追放されて、好きな者同士で、自由の野を漂泊う境遇は、むしろ、めでたい青春ではあるまいか。兼好は片恋ゆえに、かようなすね法師となり申したが、お辺がたはお若いし、しかも恋の成就者だ。……日蔭者のすね夫婦などで朽ち終ってはなりますまい。ひとつ、野に生きた生命で、野にいッぱいな楽園の花でも咲かせられては、どんなものか。希望を持つなら、機会は目の先にあろうものを」

兼好の言も、初めは、ちょっと奇矯に聞えた。

だが、元成は、彼の無造作なことばの端には、まま真実がこぼれ出すのを知って驚いた。