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すさのおのみこと

素戔嗚尊

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《素戔嗚尊(すさのおのみこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 42,917 字 · 86 頁

青空文庫

そうしてその娘に彼のような野人が恋をすると云う事は、彼自身にも何となく不似合の感じがしたからであった。

彼が始めてこの娘に遇ったのは、やはりあの山腹の柏の梢に、たった一人上っていた時であった。彼はその日も茫然と、目の下に白くうねっている天の安河を眺めていると、意外にも柏の枝の下から晴れ晴れした女の笑い声が起った。その声はまるで氷の上へばらばらと礫を投げたように、彼の寂しい真昼の夢を突嗟の間に打ち砕いてしまった。彼は眠を破られた人の腹立たしさを感じながら、柏の下に草を敷いた林間の空き地へ眼を落した。するとそこには三人の女が、麗らかな日の光を浴びて、木の上の彼には気がつかないのか、頻に何か笑い興じていた。

彼等は皆竹籠を臂にかけている所を見ると、花か木の芽か山独活を摘みに来た娘らしかった。素戔嗚はその女たちを一人も見知って居なかった。が、彼等があの部落の中でも、卑しいものの娘でない事は、彼等の肩に懸っている、美しい領巾を見ても明かであった。彼等はその領巾を微風に飜しながら、若草の上に飛び悩んでいる一羽の山鳩を追いまわしていた。鳩は女たちの手の間を縫って、時々一生懸命に痛めた羽根をばたつかせたが、どうしても地上三尺とは飛び上る事が出来ないようであった。