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すさのおのみこと

素戔嗚尊

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《素戔嗚尊(すさのおのみこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 42,917 字 · 86 頁

青空文庫

二十九

森はその崖の下にも、針葉樹の鋒を並べていた。彼は岩かどに腰を下して、谷に沈む日輪を眺めながら、うす暗い洞穴の壁に懸っている、剣や斧を思いやった。すると何故か、山々の向うから、十六人の女の笑い声が、かすかに伝わって来るような心もちがした。それは想像も出来ないくらい、怪しい誘惑に富んだ幻であった。彼は暮れかかる岩と森とを、食い入るように見据えたまま、必死にその誘惑を禦ごうとした。が、あの洞穴の榾火の思い出は、まるで眼に見えない網のように、じりじり彼の心を捉えて行った。

二十九

素戔嗚は一日の後、またあの洞中に帰って来た。十六人の女たちは、皆彼の逃げた事も知らないような顔をしていた。それはどう考えても、無関心を装っているとは思われなかった。むしろ彼等は始めから、ある不思議な無感受性を持っているような気がするのであった。

この彼等の無感受性は、当座の間彼を苦しませた。が、さらに一月ばかり経って見ると、反って彼はそのために、前よりも猶安々と、いつまでも醒めない酔のような、怪しい幸福に浸る事が出来た。

一年ばかりの月日は、再び夢のように通り過ぎた。

するとある日女たちは、どこから洞穴へつれて来たか、一頭の犬を飼うようになった。