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すさのおのみこと

素戔嗚尊

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《素戔嗚尊(すさのおのみこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 42,917 字 · 86 頁

青空文庫

十四

すると中高になった噴き井の水に、意外にも誰か人の姿が、咄嗟に覚束ない影を落した。素戔嗚は慌てた眼を挙げて、噴き井の向うの白椿の下へ、鞭を持った一人の若者が、のそのそと歩み寄ったのと顔を合せた。それは先日草山の喧嘩に、とうとう彼まで巻添えにした、あの牛飼の崇拝者であった。

「お早うございます。」

若者は愛想笑いを見せながら、恭しく彼に会釈をした。

「お早う。」

彼はこの若者にまで、狼狽した所を見られたかと思うと、思わず顔をしかめずにはいられなかった。

十四

が、若者はさり気ない調子で、噴き井の上に枝垂れかかった白椿の花をりながら、

「もう瘤は御癒りですか。」

「うん、とうに癒った。」

彼は真面目にこんな返事をした。

「生米を御つけになりましたか。」

「つけた。あれは思ったより利き目があるらしかった。」

若者はった椿の花を噴き井の中へ抛りこむと、急にまたにやにや笑いながら、

「じゃもう一つ、好い事を御教えしましょうか。」

「何だ。その好い事と云うのは。」

彼が不審そうにこう問返すと、若者はまだ意味ありげな笑を頬に浮べたまま、

「あなたの頸にかけて御出でになる、勾玉を一つ頂かせて下さい。