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すさのおのみこと

素戔嗚尊

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《素戔嗚尊(すさのおのみこと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 42,917 字 · 86 頁

青空文庫

これは勿論彼にとって、珍しい事でも何でもなかった。が、その姿に眼をやると、彼女の顔は不思議にも、眉目の形こそ変らないが、垂死の老婆と同じ事であった。

彼は恐怖と嫌悪とに、わななく歯を噛みしめながら、そっと生暖い寝床を辷り脱けた。そうして素早く身仕度をすると、あの猿のような老婆も感づかないほど、こっそり洞穴の外へ忍んで出た。

外には暗い夜の底に、谷川の音ばかりが聞えていた。彼は藤蔓の橋を渡るが早いか、獣のように熊笹を潜って、木の葉一つ動かない森林を、奥へ奥へと分けて行った。星の光、冷かな露、苔の※(「鈞のつくり」、第3水準1-14-75)、梟の眼――すべてが彼には今までにない、爽かな力に溢れているようであった。

彼は後も振返らずに、夜が明けるまで歩み続けた。森林の夜明けは美しかった。暗い栂や樅の空が燃えるように赤く染まった時、彼は何度も声を挙げて、あの洞穴を逃れ出した彼自身の幸福を祝したりした。

やがて太陽が、森の真上へ来た。彼は梢の山鳩を眺めながら、弓矢を忘れて来た事を後悔した。が、空腹を充すべき木の実は、どこにでも沢山あった。

日の暮は瞼しい崖の上に、寂しそうな彼を見出した。