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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(七)平次女難

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(七)平次女難(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 152,696 字 · 310 頁

青空文庫

八

三十幾人の無力な護衛たちは、しばらく口を利くものもありません。幾度も幾度もその辺り中を見廻し、また主人の善兵衛は、いよいよ最後の愛児もさらわれてしまった事を確かめると、そのまま、

「ウーム」

と気を喪ってしまいました。

女中のお千代は、平次の手から取られた裾を自棄に引離すと、

「とうとう――」

そう言って顔を反けました。勝ち誇っているのか、腹を立てているのか、まるっきり見当が付きません。

それにこの美しい女中が充分怪しいと思ったところで、平次が咄嗟の間に裾を掴んで引据えていたのですから、これが栄三郎を隠したのでないことは、判りすぎるほど判っております。

家の中はまた大掃除ほど探し抜かれましたが、平次はもうそんな事を当てにしません。フラリと飛出すと、ツイ寮の入口から、向島の土手の上に駆け上がってしまいました。

八

「老爺さん」

「あッ、親分」

「どうだ、見たか」

「おっしゃった通り、引窓から黒い者が飛出しましたよ」

「どっちへ行った?」

「何か引っ担いでいる様子でしたが、この通りの闇ではっきりした事は判りません。屋根からいきなり桜の枝に飛付くと、土手へ這い上がって上手の方へ行きましたよ」