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ずいひつ しんへいけ
随筆 新平家
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《随筆 新平家(ずいひつ しんへいけ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 213,575 字 · 424 頁
この厳島へでも持って来ておけば、とても、頼朝にあの機運はつかみ得まい。頼朝の資質は、もちろん凡庸でないから、自然、長じては、策動もしたではあろう。しかし、たとえ彼が旗挙げをやったとしても、時期はずっと、後になり、何よりは、関東勢の結束が、あのようには、彼を中心に、運ばなかったにちがいない。
こんな空想は、笑うべきものかもしれない。たれよりは、清盛塚の石が、ぼくの痴愚を笑うだろう。が、歴史家でない作家が歴史を観るばあいは、そうもいえようではないか。
もしまた、推理は措いて、上田秋成的な幻想を心に呼び、平家蟹のような恨みが、今もなおこの瀬戸内を去らぬとするなら、それも詩である。ぼくにも、こうしていると、そんな想いがそくそくと奏でて来ないわけでもない。
波の音、雲のひびき、松かぜの声は、あだかも、厳島内侍をのせた管絃の船が、今夜も、平家のなにがしやら公達などと共に、この岩山のすぐ下あたりを、ゆるやかに、漕ぎ寄って来るような心地もする。もし一夜を、西行法師にまねて、ここに腰かけていたら、船戦の矢たけびも聞こえ、一門の紅旗や楯や弓のむらがりが、暁の雲間に現じて来るかもしれない。