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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Read 火の扉 (ひのとびら) by 岸田 国士 (きしだくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,467 characters · 257 screens
八
「さ、なんにもないけど、お茶にしましよう。トムちやんは、このおにいさん、知つてるわね。市ノ瀬さん、ね、いつか北原先生と……」
「うん、うん、そんなこと知つてるよ」
八
「そんなこと知つてる、は、なに? その言いかたは?」
笑いながらではあるが、井出夫人はちよつと息子をたしなめる。
「こないだ、いたゞいたおさつだけど、よくこんなに上手にかこつておゝきになるわね」
東京風の焼イモが、彼女のしなやかな指の先につまみあげられる。
「今年はじめて成功したつて云つてますよ、うちの母は」
「あら、あなたのご研究じやなくつて、お母さまのご丹精なのね」
「わしは一俵二俵を目当にしとらんからね。去年はこの村で五千貫から腐らかいたで、今年は、わしがやり方をかえてみただが……」
「へえ、そうすると、あたしたちの命が市ノ瀬さんの肩にかゝつてるわけ?」
「そういうこんだ」
まじめともじようだんともつかぬ話ぶりだが、しかし、夫人のいのちだけなら、自分の肩に、と言いたいところである。それにしても、こういう話題は、彼としてはあまり好ましくない。こんな話ならどこへ行つてもできるからである。と、そのとき、