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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Read 火の扉 (ひのとびら) by 岸田 国士 (きしだくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,467 characters · 257 screens
四
「あら、あら、もうそんなこと言つて来ましたの? どうもすみません。あたくしがいなくつてお困りになつたでしよう? それで、なんておつしやいましたの?」
このでんで、いつも相手は気もちをほぐされる。どんな皮肉でも、それにはまつこうから反ぱつをみせない。そうかといつて、通じるものだけは通じているのである。どつちみち、「よめ」だからつらく当るというようなたちの「しゆうと」でもなく、こういう物言いはもと/\この老人の癖なのだから、康子のあつさりした出方で、もうそれきりになる。
四
こういういきさつはあつたけれども、わりにすら/\とピヤノの買手がついた。M市から、音楽学校出だという若い娘が、村夫子然とした父親と一緒に、その日の夕刻やつて来て、こつちの言い値をそのまゝ、二千円の手附を置いて帰つて行つた。その娘もわりに感じがよく、音色を調べてみるやり方も、無作法でなく、キザでなく、初々しいピヤニストの情熱をみせて、康子を心からほゝえませた。
で、あとは、もう一度自分が附いて、荷造りと運搬の指図をしに来るから、残りの金はその時にとはつきり言い、娘は父親とその日取りについて相談し、