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ひのとびら
火の扉
岸田 国士
Read 火の扉 (ひのとびら) by 岸田 国士 (きしだくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 129,467 characters · 257 screens
アトリエの夜
一
「あがつていたゞく?」
「いゝえ、わたしが出ます」
玄関へ出た北原ミユキは、ふたこと三ことその男と口を交わし、やがて、もどつてくると、
「わたし、これで失礼させていたゞきますわ。奥さまには、このことはいずれお話します。かんたんには言えませんの。市ノ瀬さん、さよなら……さつきのこと、よく考えるわ。わたし、ほんとの自分をみつけだしたいの。どこを歩いても、まつくらなんですもの……」
北原ミユキが、その男の後について門を出て行くと、井出康子は、首を大きくかしげながら、市ノ瀬牧人のそばへ帰つて来た。
「あたし、ほんとに意外……。でも、まる三日、お話をしどおしよ。それに、気ぶりにもそんなところはみえないんですもの……」
アトリエの夜
一
年のころは二十から三十そこ/\まで、身なり風体は思いおもいの男女が十二三人、あるものはソファーにふんぞりかえり、あるものは床の上にあぐらをかき、またあるものは窓のかまちに腰をかけなどして、歌い、笑い、議論をし、そして、なかには、まだ酒の残りをちびり/\茶わんで飲んでいるものもあつた。
部屋は天井の高い、中二階のある美術家のアトリエである。