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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
遠くの高欄をちらと行く侍女やら上の美しさも、都振りそッくりを、この伊吹の山城へ移し植えたとしか思えない。
それにつけ、又太郎は、
「当主高氏とは、そも、どんな?」
と、今日の会見が変に待たれた。
やがて。夜前に約した時刻になると、土岐左近が迎えにみえ、ふたりを誘ってべつな広間へみちびいた。
上座の茵は、上下なしの意味か、親しみの心か、二つならべて敷いてある。
右馬介は、もちろん末座。
そして又太郎だけが、ずっと進んで、その一つに着こうとしたとき、廊の杉戸口からつかつかと入って来た佐々木高氏が、もひとつの茵を前に、
「やあ」
とだけいって、ひと呼吸ほどな間を措き、
「御着座を」
すすめながら、自身も共にどっかと坐った。当時の作法、いうまでもなくあぐらである。
「ご迷惑とは存じたが、下野と近江とでは、またのお会いもいつの日かと、土岐が申すままお引留め申した。お見知りおきください。身どもが佐々木佐渡ノ判官高氏でおざる」
「御同様に。……足利又太郎高氏におざりまする」
「はははは。高氏と高氏、これがまことの名のり合いよの」
せつなの印象では、この初対面も、又太郎には何か心にそぐわない“他人”を感じただけだった。