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しほんたいへいき
私本太平記(一)
吉川 英治
Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens
大きな御手
――で、この惣領の教養には、欠くところないつもりだが、ただ、なにぶん東国の一平野に育ったままではと、それのみは彼の母すら不満としていたからだった。
どう説いたか、または憲房が、すすんで一策を案じたのか。ついに彼の望みはきかれ、よそながらでも、明日の行幸を拝してからの帰国と話はきまった。くれぐれ、その直後にはすばやく離京するようにと、憲房は念を押した。伯父甥、それらの相談で夜をおそくした。又太郎はすぐには枕になずめなかった。
大きな御手
あいにく、正月三日の空は、薄曇りだった。そして折々は映す日光が、北山の遠い雪を、ふと瞼にまばゆがらせた。
――天皇の鸞輿は、もう今しがた、二条の里内裏をお立ち出でと、沿道ではつたえていた。行幸や御幸を仰ぐのはめずらしくない都の男女だったが、朝覲の行幸と知って「……今日ばかりは」の、ひしめきらしい。
まことに、今上(後醍醐天皇)としても、公な父皇への御訪問は、即位後、初めての御儀だった。今後とて公な御対面としては、御一代あるかないかもしれないのである。
子が父を訪い母と会うにすら、こんな儀式が必要事とされるのも、天皇なればこその、おわずらいよと、たくさんな庶民の中には、その不自然な御環境に「――なんたる、御不自由さか」