Japanese reading practice

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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

Read 私本太平記(一) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 246,214 characters · 495 screens

Aozora Bunko

正中ノ変

いかにも、沈着な女の姿に返っているのだ。鏡で顔を直し、丈なす黒髪を櫛で梳き、それから、塗りの懐剣を持った手を、きちんと膝の上において、美濃の故郷にある小さい子の上でも想っているのか、しばし身じろぎもしない風……。

「あっ、ばかっ。何をする」

頼春は刎ね起きた。その手から懐剣をもぎ取って遠くへ抛る。わっともがく。泣き狂う。およそ世の夫婦仲にありふれた、そして、帰結もおなじ一瞬にすぎなかった。

そして良人は、この若妻の余りな嫉妬を解くために、文談会一味の秘事やら、また日野俊基をその夜送っておそくなった仔細までを、つい正直に打ち明けてしまったのだった。で、彼女も一応、得心した態ではあったが――。

正中ノ変

「な、なんじゃと。まことか、そのはなしは」

六波羅倉奉行の斎藤四郎左衛門利行は、仰天しても足りないように眼をむいた。その日、訪ねて来た、むすめの波路を前においてである。

「なんで、定かでもないに、お告げしにまいりましょう。この秘事、誰にも洩らすな、洩れたら一味の破滅ぞと、良人も恐い顔して、打明けたことでございまする」

「では聟の頼春も、その一味に加わっておるわけだな」