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ずいひつ みやもとむさし

随筆 宮本武蔵

吉川 英治

Read 随筆 宮本武蔵 (ずいひつ みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,786 characters · 278 screens

Aozora Bunko

中国山脈の山間の一城下に、彼が呱々の声をあげた年は、天正十二年の三月だったといわれている。(一説に十年説や異説もあるが、二天記に従っておく)

武蔵の生れたつい二年前は、秀吉の中国攻略が行われた年だった。武蔵の郷土、作州吉野郷の竹山城下(現・岡山県讃甘郡宮本村)は、浮田家に所属する一領地であったから、秀吉の織田軍に合力して、有名な高松の「水攻め」などには、その背道の嶮を守ったり、敵の糧道の遮断に当ったことだろうが、この地方は古くから豪族赤松の分流やら、その他の土豪の支族が、小勢力にわかれていて、利害はそれぞれ錯雑し、毛利方に加担するもあれば、織田の統制に合流するものもあったりして、中央の動流と共に、いつも小合戦の絶え間なかった地方であった。

わけて秀吉の中国遠征は、大規模な大軍をうごかして、中国一帯を、一時戦時色に染めたほどであったから、およそ戦争というものの実感と惨害は、この地方の郷土には、農民の端にまでよく分っていたに違いなかった。

老人は老人で、それ以前も絶え間のなかった――三好、細川、赤松、尼子氏などの治乱興亡の戦語りを、炉ばたに寄れば、見たこと聞いたこと、幼い者にして聞かせたことであろうし、若い者は、すぐ眼近にあった、高松城の水攻めの陣だの、その年の本能寺の変だの、すぐ翌年の小牧の大会戦だの、