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ずいひつ みやもとむさし
随筆 宮本武蔵
吉川 英治
Read 随筆 宮本武蔵 (ずいひつ みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,786 characters · 278 screens
、力競べには手頃なので、差しあげたり、抛ったりしたものだそうである。
古いその墓石は、誰が建てたのか、惜しいことに行方も知れないので記年も施主もわからない。この島の名を有名にさせ、武蔵のために敗れて敢なく若い偉材をこの一小島に埋めた佐々木小次郎に――一掬の涙をそそいで墓石を建てた古人は、いったい誰だったか。私はむだと知りながらも思いを追わずにいられない。
現在の巌流碑は、四尺七、八寸の棹石で、実見しないが、碑面に、
佐々木巌流之碑
明治四十三年十月三十一日
舟島開作工事之際建之
とある物で、施主数名の名が刻してあるとのことだが、それらの人は、おおかた附近の漁民や船頭業の者らしく、島の土地が漸次、時代の工業的な光をうけ出した標識とも見られるのである。
この島の土地が、母島の持主の手から離されて、売りに出されてから、三菱合名だの正金だの神戸の鈴木だのと、幾度も所有者は変って来た。明治二十六、七年ごろには、赤間ヶ関消毒所というのが建ち、日清戦争の頃には、そこが傷兵の病院にもあてられた。大正何年にはまた、小船渠が起工されたり、神戸の鈴木が何か計画したりしかけたそうだが、みな物にならないで、現在は関門トンネルの開通を目前にしながらなお、工業的には無為に抛置されてあるらしい。