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ずいひつ みやもとむさし
随筆 宮本武蔵
吉川 英治
Read 随筆 宮本武蔵 (ずいひつ みやもとむさし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,786 characters · 278 screens
喜兵衛の最期
新当流の兵法者有馬喜兵衛が矢来を構え、金磨きの高札を立てて、他流試合の相手を求めたと伝えられるのは、この頃のことである。
手習の帰途、この高札に目をとめた悪童武蔵は、手習筆を以って墨くろぐろと塗りつぶし、宮本弁之助(武蔵の幼名)が挑戦する旨を大書して、僧庵に帰った。
その夜、喜兵衛の使いが、僧庵を訪れて試合応諾を伝えたので、初めて事の次第を知った庵主は胆を消し、
「小忰の悪戯ゆえ、なにとぞ深くお咎めなく容赦されたい」
と百方陳謝した。
が、喜兵衛にしても、高札を塗りつぶされたからには、武芸者としての面目上、黙って引き下がるわけには行かない。折衝の末、庵主が矢来の前へ弁之助を伴い、衆人の前に無礼を詫びることになった。
明くれば、弁之助挑戦の趣を伝え聞いて、矢来のまわりは盛んな群集であった。
「さ、早くお詫びするのじゃ」
庵主が命じる。頑童はしばし黙然としていたが、突如、持ち来った棒を揮って、喜兵衛に襲いかかったのである。
火のような怒りを発した喜兵衛は、太刀を抜き放ってこれに応ずる。と、矢庭に、弁之助は棒をすてて喜兵衛に組み付き、巌石落しに大地に叩きつけた。