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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
Read 鳴門秘帖(一) (なるとひちょう) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 262,100 characters · 523 screens
「流せや濁世、侵せよ鳴門!」
「濁り世の底に、鳴るわ鳴るわ」
「怒るわ怒るわ――鳴門の渦!」
「洗えや鳴門――」
「澆季の濁り世」
ポーン! と三位卿、吾を忘れて、
「討てや徳川ッ」
はッと驚いて三卿が、謡うを止めた時である。長廊下をツツツと小走りに来た近侍の者。
「殿様――」と、両手をつく。
「なんじゃ!」
「お召しになりました森啓之助殿」
「ウム、最前から待ちかねているのじゃ、なぜ早く姿を見せぬ?」
「卍丸御用意のため、川口の脇船へ何かの諜しあわせにおいでになり、只今、お船蔵にはおいでがないそうでござります」
「なんじゃ今頃――、きゃつ、近頃どうか致している」と、舌打ちして呟いたが、
「是非がない。では天堂一角を呼べッ」
「はっ」
退こうとすると、阿波守、またあわただしく呼び止めて、
「待て待て、ここへ参るついでに、奥牢へ入れおいた俵一八郎、庭先へ曳いてこいと申せ」
近侍が立ち去るとともに阿波守、また朗々たる音声で鳴門舞を舞いだした。だが、舞いながらその眼ざし、襖ぎわに居流れている女中たちの数をスッカリ読んでいた。
と、庭先へ動いてくる人影がみえた。
「一角、まいったか!」