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さんごくし
三国志(三)
吉川 英治
Read 三国志(三) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 312,452 characters · 628 screens
二
牛渚の要塞へと逃げて来ると、城門の内部や兵糧庫のあたりから、いちめんの黒煙があがっていた。
「や、や、何事だ」
張英が、うろたえていると、要塞の内から、味方の兵が、
「裏切者だっ」
「裏切者が火を放った」と、口々にさけびながら煙と共に吐き出されてきた。
火焔はもう城壁の高さを越えていた。
張英は、逃げまどう兵をひいて、ぜひなく山岳のほうへ走った。――振りかえれば、勢いに乗った孫策の軍は、おそろしい迅さで追撃して来る。
「いったい何者が裏切りしたのか。いつの間に、孫策の手が味方の内へまわっていたのだろうか?」
山深く逃げこんだ張英は、兵をまとめて一息つくと共に、何か、魔に襲われたような疑いにつつまれて、敗戦の原因を考えこんでいた。
二
孫策の軍は、大勝を博したが、その日の大勝は、孫策にとっても、思いがけない奇捷であった。
「いったい城中よりの火の手をあげて、われに内応したのは何者か」と、いぶかっていると、搦手の山道からおよそ三百人ほどの手下を従えて、鉦鼓をうち鳴らし、旗をかかげ、
「おーい。箭を放つな。おれ達は孫将軍のお味方だ。敵の劉の手下と間違えられては困る」