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さんごくし
三国志(三)
吉川 英治
Read 三国志(三) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 312,452 characters · 628 screens
雷怯子
一
「オ。……雨もやみましたな」
と、先に木蔭を出て、空を見上げた。
雷怯子
一
雨やどりの間の雑談にすぎないので巧みに答えをかわされたが、曹操は、腹も立てられなかった。
玄徳は、すこし先に歩いていたが、よいほどな所で、彼を待ち迎えて、
「まだ降りそうな雲ですが」
「雨もまた趣があっていい。雨情ということばもあるから」
「今の驟雨で、たいそう青梅の実が落ちましたな」
「まるで、詩中の景ではないか」
曹操は、立ちどまった。
玄徳も見た。
後閣に仕える侍女たちが、雨やみを見て、青梅の実を拾いあつめているのである。美姫は手に手に籠をたずさえ、梅の実の数を誇りあっていた。
「……あ。丞相がおいでになった」
曹操のすがたを見ると、女院の廂のほうへ、彼女たちは、逃げ散るようにかくれた。曹操は、詩を感じているのか、或いは彼女たちの若さに喜悦しているのだろうか、その鳳眼に笑みをたたえて見送っていたが、――ふと客の玄徳に気づいて、
「いじらしいものですな、女というものは。あれが生活です」
「よくあんな美しい侍女ばかりお集めになられましたな。さすがは、都というものでしょうか」
「ははは。しかし、この梅林の梅花がいちどに開いて、芳香を放つ時は、彼女らの美は、影をひそめてしまいますよ。